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第87回「海に潜む寄生虫の謎に迫る!~魚とヒトとアニサキス~」開催レポート
2022.07.08レポートサイエンスカフェ@ふくおか
第87回サイエンスカフェ@ふくおかを7月5日に開催しました!
Vision Expo「みせる」九大の総合知の第3弾として会場を病院キャンパスに移しての開催となりました。
今回のテーマは「海に潜む寄生虫の謎に迫る!」~魚とヒトとアニキサス~
前回のサイエンスカフェではアニサキスのリスクがない養殖サバについてのお話がありましたが、そもそも寄生虫とは一体どんなものなのか、ヒトの体に入った時どうなるのか、アニサキスに関してのミステリーなど盛り沢山の内容でした。
今回の講師は医学研究院保健学部門の小島夫美子先生。
先生が描いた絵や動画などを使い、分かりやすくお話しいただきました。
熊本県出身。現勤務先の前身である医療技術短期大学部を卒業後、九州大学病院検査部に勤務、
その後、母校に戻り現在に至るまでの42年間、九州大学で教育・研究に携わっています。
好きなことは赤ワインを飲みながらサスペンスドラマを見ることです。

寄生虫とは
そもそも寄生虫とはどんな生物なのでしょうか。寄生生物とは他の生物に自らを委ねて生きることを選んだ生物であり、宿主がないと生きていけません。
しかも宿主は他の生物であれば何でも良い訳でなく、特定の宿主(固有宿主)でないと成虫にまで発育し、子孫を残すことが出来ません。
ヒトへの感染経路としては経口感染が最も多く、主に食べ物とともに入ってきます。日本では特に魚を生で食べる食文化があることから、魚介類を食べて感染する寄生虫症の症例数は世界の中でも多いと言えます。
ここでアニサキスを例に寄生虫の一生を見てみましょう

- 終宿主のクジラ・イルカに寄生している成虫が卵を産出する
- 海水中に産出された卵は、孵化して幼虫となる
- この幼虫をオキアミ類(中間宿主)が捕食し、この中で脱皮し、感染性のある第3期幼虫となる
- オキアミが魚(待機宿主)に食べられると、幼虫は感染性を維持した状態で寄生する
- これらの魚がクジラ・イルカ(終宿主)に食べられると、その胃の中で成虫になる
終宿主の体内に入るまではアニサキスは幼虫であり、脱皮しながら成長していき、終宿主の体内でやっと成虫となり、卵を生むことが出来るようになります。
アニサキス症とアニサキスアレルギー
最近ニュースなどでも話題になりましたが、アニサキスが人体に入った時に何がおきるのでしょうか。
ヒトが魚を生食したときに、一緒にアニサキス幼虫が侵入してしまうと胃壁や腸壁に穿入して腹痛を起こします。これをアニサキス症と呼びます。自覚症状のない緩和型と激しい腹痛や嘔吐を伴う劇症型があり、この違いは過去に感染し、すでに感作されているかどうかによるものと考えられていますが、まだ不明な点も多いです。
現在、アニサキス症は薬物療法が確立されておらず、内視鏡による摘出が唯一の治療法とされています。アニサキスは熱や冷凍により死亡しますが、香辛料等は殺虫効果がなく、魚介類を生食する場合には注意が必要です。
アニサキス症とは別にアニキサスアレルギーというものがあります。アニキサス症は生きた幼虫の侵入が原因で起こりますが、アレルギーはアニサキスの生死に依らずアニサキスそのものがアレルゲンとなります。従って、生魚だけでなく、どんな調理法で魚を食べても発症する可能性があります。症状としては、一般的な食物アレルギー症状(蕁麻疹、浮腫など)がみられます。アニサキス症の症状が激しい上に、アナフィラキシー反応を伴う場合は、アニサキスアレルギーを併発していることも考えられます。

アニサキスのミステリー
小島先生はこのアニキサスを研究の対象とされているそうで、一つ面白いお話をしてくださいました。
アニサキス症の主の原因種となるAnisakis simplexには全く外見が同じで遺伝子が一部異なる同胞種がいて、それぞれAnisakis simplex sensu stricto:ASSS、Anisakis pegreffii:APと分類されます。
日本の近海で穫れるサバに含まれるアニサキスを分析したところ、日本海側ではほとんどAP、太平洋側では多くがASSSと生息域によって異なることがわかりました。
一方、アニサキス症の患者から摘出されたアニサキスを分析した結果では、ほぼASSSしか報告されていません。
一体なぜ、食材寄生種とアニサキス症因種に乖離が見られるのか・・・この違いは海外(イタリア、スペイン、韓国)などでは見られないそうです。小島先生は同胞種2種の病原性の違いや患者の摂取率などを仮定し、現在検証を行っているそうです。
アニサキスとの付き合い方
アニサキスは魚の生食文化がある我々にとって厄介ですが、逆にアニサキスからしてみれば想定外の寄生先であり、彼らにしても迷惑であるという何とも困った状態です。
そんなアニサキスとの付き合い方ですが、やはり予防が重要となります。そのためアニサキスをセンサーで発見する技術や殺虫する方法の開発が進められています。その他にもアニサキス症の治療薬の開発や、アニサキスを含まないアニサキスフリーの魚の開発など、色々な取り組みが行われているそうです。
刺身を安心して食べられる日がくると良いですねという言葉で締めくくられていました。