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第89回「世界遺産、どこまで知っていますか?―「水」を通して見る世界文化遺産の価値」開催レポート

 10月7日に第89回サイエンスカフェ@ふくおかを伊都キャンパスフジイギャラリーとオンラインのハイブリッドで開催しました。

 今回のテーマは「世界遺産、どこまで知っていますか?―「水」を通して見る世界文化遺産の価値」
講師は九州大学大学院法学研究院の河野俊行教授です!

 ユネスコの助言機関であり、世界遺産(文化遺産)審査に携わるイコモスの理事、副会長を経て、日本人として初めてイコモス会長に就任(2017年―2020年)、イコモスの世界遺産業務一般を取り仕切った。現在はイコモス名誉会長。

 2019年に被災したノートルダム大聖堂と首里城正殿のウェブ展覧会を企画。

河野先生がICOMOSの会長をされていた時のことなどを交えながらお話しいただきました。

世界遺産について

 皆さんは世界遺産についてはどのくらいご存知でしょうか。
日本でも知床や厳島神社などが登録されており、その数は現在世界で1154件、日本では25件が登録されています。
 また一口に世界遺産と言っても文化遺産、自然遺産、複合遺産の3種類があります。また状態が悪くなると危機遺産リストに載せて支援するそうです。

 そもそも世界遺産はどのようにして決められるのでしょうか?

 世界遺産かどうかを決定するのは世界遺産委員会という組織が決定しているそうです。ただこの委員会の委員は各国の外交官であるため、専門的な知識がありません。
 そこで助言機関というものが出てきます。それぞれ自然遺産はIUCN(国際自然保護連合)、文化遺産はICOMOS(国際記念物遺跡会議)という助言機関があり、ここで事実上の審査を行い、世界遺産委員会に勧告します。

 では世界遺産になるための条件は何だと思いますか?

 古さ?それとも規模?

 実はユネスコの世界遺産条約では「顕著で卓越した価値(Outstanding Universal Value)」という文言でしか条件が定義されていません。
 そこで世界遺産条約履行のための作業指針で、顕著で卓越した価値を有するかどうかを判断するために10の基準を設けています。

ICOMOS

 上で専門的な助言機関として世界文化遺産の審査を行っていると紹介しましたが、実際はどのようなことをやっているのでしょうか。今回の講師の河野先生は何とイコモスの会長をされていたので、その貴重な実務のお話を聞くことが出来ました。

 まず遺産への登録を希望する国から提出された推薦書を読み、必要であれば追加資料などを求めます。それと同時に専門家を現地に派遣し、遺産の保存状態についてレポートしてもらい、それらを元にして40名程度の識者で議論を行います。最終的に意見をまとめるのですが、専門家同士意見が異なる場合もあり、これをまとめるのは大変だったとおっしゃられていました。

 また河野先生が会長のとき、推薦国と対話する機会を設けるという取り組みを始めました。これは審査の透明性を図るためで、各国からの評判も良いそうです。

水を通して見る世界遺産

 今回は水という切り口で年代別に世界遺産を7つピックアップしてお話いただきました。

まず古代では水を如何にコントロールするかという事が重要でした。

○良渚古城遺跡
 中国の良渚古城遺跡は紀元前3300~2300年頃の遺跡です。良渚文明は、長江流域に位置し稲作を中心とした統一的な信仰体系を持つ都市国家を形成していました。長江流域は降水量が多く、あり余る水をコントロールするため水利システムが発達しました。

○ペトラ遺跡
 ヨルダンのペトラ遺跡では乾燥地帯で水資源が少なく、雨季に降る水をためて渓谷に水路を作って街の中に給水していたそうです。都市は8世紀に放棄され、水の管理システムは今では完全に失われています。

○階段井戸
 同じく乾燥地帯のインドやパキスタンでは地面を掘り下げて階段を設け、地下水やそこに溜めた雨水を利用していました。井戸としての生活機能や社交的な機能だけでなく、宗教的な機能も持ち、世界遺産になったラニキヴァヴと呼ばれる階段井戸では壁面に緻密なレリーフが施されています。

○アウグスブルク
 アウグスブルクでは水管理システムそのものが世界遺産として登録されていて、水源から街まで続く運河のネットワークは14世紀に作られてから現在もまだ運用されています。飲み水とそれ以外の水を分離した水路のネットワークや街で見られる芸術的な噴水など独自の水の景観を作り出しています。

ルネサンス期に入ると水は生活のためだけではなく、もっぱら芸術的な表現のために用いられるようになります。

○ティヴォリのヴィラ・デステ
 イタリアのティヴォリにあるヴィラ・デステはエステ家別荘とも呼ばれ、その庭園には500以上の噴水があり、水圧を利用してパイプオルガンの演奏する噴水などもあるそうです。またその美しさから芸術にも影響を与え、題材とした絵画や楽曲などが多数あります。

産業革命までは、水路がもっとも重要な交通経路でした。

○ロワール渓谷
 フランス最長のロワール川沿いに都市が発達し、富が集積します。その流域の古城郡を含むロワール渓谷が世界遺産として登録されています。古城ではロワール川を流れる水を活用し、ルネサンスを代表する美しい庭園が作られました。

しかし産業革命以降では水は工業などに用いられ、運河や発電、港湾など人間が水を支配して活用するようになります。

○三井三池港
 これは2015年に明治の産業革命遺産群の1つとして登録されたのでご存じの方も多いのではないでしょうか。三池港のある有明海は潮の干満の差が激しいため、長い堤防を築き、閘門で水を制御して大型船が寄港できるようにしました。

被災した世界遺産

 河野先生の研究関心として、災害で被災した文化財を復元するという営みに共通性があると考え、復興について文化遺産が果たす役割について興味を持っているそうです。

 そこで2019年に火災で甚大な被害にあった首里城とノートルダム寺院についてウェブ展覧会をされています。以下にURLを記載していますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。

パリ・ノートルダム大聖堂と首里城 2019年の火災を超えて 復元と文化遺産の価値を考える
https://www.notredame-shurijo.com

89回サイエンスカフェの様子
良渚古城遺跡から発掘された遺物について説明する河野先生

 今回は水という観点で色々な世界遺産を見ていきました。私もそもそも知らない世界遺産があったり、知っていても水という観点では知らないことがあったりと興味深く聞いていました。

 皆さんも普段とは違う観点で世界遺産を見てみると新たな発見があるかもしれませんよ!

次回のサイエンスカフェですが今年度中の開催を予定していますので、詳細が決まりましたらウェブサイトの方でお知らせします。

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