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第90回「メタノールエネルギーキャリアの謎に迫る!~2050年カーボン・ニュートラルは達成できるのか!?~」開催レポート

第90回となるサイエンスカフェ@ふくおか、100回まであと10回となった今回は「メタノールエネルギーキャリアの謎に迫る!~2050年カーボン・ニュートラルは達成できるのか!?~」をテーマにエネルギーキャリアとしてのメタノールの可能性に迫りました!

講師はカーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の中村潤児教授です。

             中村先生(下段中央)とスタッフの皆様

北海道札幌市出身です。筑波大学で32年間奉職し、今年の5月に九州大学の三井化学カーボンニュートラル研究センターに着任しました。
化学反応の応用で必要になる触媒の基礎研究を40年間続けていますが、まったく飽きず、今が一番面白いように感じています。しかしCO2削減の政策については強い問題意識を持っています。

とは言っても、そもそも「メタノールエネルギーキャリアって何?」と思う人が多いのではないでしょうか。
まずはカーボン・ニュートラルに関係するところから見ていきましょう。

再生可能エネルギー
これは御存知の方が多いとおもいます。太陽光や風力など化石燃料を使用しない発電方法で、カーボン・ニュートラル達成のためには重要な要素です。
ただ問題点として現在の技術ではまだ大量に蓄電できるバッテリーがなく、エネルギーの運搬、貯蔵が十分に出来ません。

水素社会とは
水素社会は化石燃料の代わりに水素をエネルギー媒体として用いる社会です。再生可能エネルギーで生成した水素を利用して発電することでCO2の排出を押さえることが出来ます。
突然水素が出てきましたね!?
ここで水の電気分解についてさらっと解説します。

H2O(水) + 電気 ↔  1/2 O2(酸素) + H2(水素)

水に電流を流すことで酸素と水素に分解できます。逆に酸素と水素が反応して水と電気が生成されます。この水素と電気の関係がカーボン・ニュートラルに重要になってきます。

エネルギー媒体としての水素
ここからいよいよ今回の本題に入っていきます。
先程再生可能エネルギーの弱点として作った電気の運搬・貯蔵が十分に出来ないと言いました。
また水素と電気は相互に変換することが出来ることがわかりました。
つまり太陽光や風力で得られた電気で水を分解して水素を生成し、この水素を運んだり貯めたりできれば、再生可能エネルギーの問題点を解消できますね。

燃料電池
水素から電気をどうやって作るのか?それには燃料電池というものを用います。燃料電池では水素と空気中の酸素を反応させ水と電気を生成します。
簡単に仕組みを紹介しておきます。
1.白金触媒によって水素が水素イオンと電子に分かれる
2.水素イオンは電解質膜を通って反対極に移動、電子は電極を繋いだ導線を通って移動(これが電気です)
3.反対極で移動してきた電子と水素イオン、空気中の酸素が反応し水が生成されます

   燃料電池の模式図

燃料電池は主に4種類あり、電解質や作動温度、発電効率などが異なっています。
また燃料電池の触媒には電気伝導性の高い白金が使用されることが多いですが、中村先生はこの電極にカーボンを使い低コスト化する研究にも取り組まれているそうです。

水素を運ぶためのメタノール
電気と水素が相互に変換できるという部分を説明してきましたが、これから肝心の水素の貯蔵・運搬について見ていきましょう。
水素を運搬する方法として高圧で圧縮する、低温で液化する、パイプライン、他の物質に変換するという4つの運搬の仕方があり、さらに他の物質に変換する方法では合成する物質としてアンモニア、メチルシクロヘキサン、そしてメタノールやメタンなどがあります。
それぞれの方法でメリットやデメリットがありますが、今回はその中のメタノールに着目します。

メタノールのメリット
・生産時にCO2を消費する
 →使用時に出るCO2を再度メタノールの生成に使用することでCO2を循環させることができる。

 CO2(二酸化炭素)+ 3H2 (水素) ↔ CH3OH(メタノール)+ H2O(水)

   二酸化炭素循環型水素社会

・運搬時の体積あたりのエネルギー密度が高い
 →同じ運搬量でより多くのエネルギーを運べる!
・用途が多い
 →水素キャリアとしてだけでなくメタノール自体が化学物質の原料や燃料として需要がある

メタノールのデメリット
・国内で製造会社、生産量ともに少ない
・水素だけ使うにはひと手間必要

水素戦略における海外の動向
水素の活用がCO2削減のための大きな柱であることは海外でも同じです。では世界における水素事情はどうなっているんでしょうか。
水素利用に関して以前は日本が世界をリードしていたのですが、現在はアメリカ、ヨーロッパ、中国が牽引しているそうです。アメリカではバイデン政権が水素大国を目指し2030年に1000万トンの生産を目標に生産拠点の整備が進んでおり、再生可能エネルギーへの転換が進むヨーロッパでも同様に生産量の引き上げや水素関連技術への投資が進んでいます。また中国では既に水素の生産量、水素ステーションの数とも世界一であり、燃料電池車の生産も急速に伸びてきています。
個人的に中国に水素というイメージ全くなかったのですごく驚きました。

カーボン・ニュートラルを実現するために
カーボン・ニュートラルを現実化するためには日本のCO2排出の約9割を占めるエネルギー起源のCO2を削減する必要があり、そのためには再生可能エネルギーと水素が重要になることがわかったと思います。
今回取り上げたメタノールエネルギーキャリアは再生可能エネルギー、水素と私達の社会を繋ぎ、さらにCO2を循環させることが可能であり、カーボン・ニュートラル達成の鍵の一つになるのではないでしょうか!?

最後に次回のサイエンスカフェのご案内です。
「アート×農の魅力に迫る!」~農村社会にアプローチする芸術活動~
講師の芸術工学研究院の長津結一郎先生と農村社会での芸術活動について一緒に考えていきます。
是非ご参加ください。
※開催曜日がいつもと違うためご注意ください。

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