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第91回「アート×農の魅力に迫る~農村社会にアプローチする芸術活動~」開催レポート

年内最後となるサイエンスカフェ@ふくおかが12月13日に開催されました。第91回は「アート×農の魅力に迫る~農村社会にアプローチする芸術活動~」と題し、芸術工学研究院の長津結一郎先生にお話しいただきました。

                   長津先生(右上)とスタッフの皆様

北海道札幌市で生まれ、茨城・千葉・東京で青春時代を送り、2016年から九州大学に着任しました。
アーツ・マネジメントや文化政策、特に芸術を通じた社会包摂のあり方を専門としています。机の上の研究だけでなく、学生や地域の人たちと一緒に現場をつくり、そのプロセスからいろいろと考えることを言葉にしています。八女市黒木町笠原地区の地域活動と協働し「奥八女芸農プロジェクト」を立ち上げました。
最近糸島市に越し、山や海を眺める毎日です。

アートマネジメント
皆さんはアートマネジメントという言葉を聞いたことがありますか?日本語に翻訳すると芸術経営学となるそうです。何だかすごく硬そうな言葉です。
「アート」や「マネジメント」は「芸術」や「経営」「管理」といった訳語があてられますが、元々の語源は「アート」は人による技術、「マネジメント」は馬の手綱を捌くこと、だそうです。でも語源で考えたほうが何だかイメージしやすいですね。

今回は長津先生がアートマネジメントの人材を育てるプロジェクトに携わっていたときの体験を中心に、農村社会とアートとの関係や、そもそもアートとは?と言った広い話題を語っていただきました。

プロジェクト最初の年は、アプローチとしてバスツアーで農村地域の魅力を知ってもらいつつ、その中でアートを体験してもらうという企画をしたそうです。面白そうな企画に聞こえましたが、先生にとってこの企画は挫折の連続だったそうです。原因はそもそもイベント規模が大きすぎたことと、何より地元の方に寄り添うことができず、一方的になってしまったという反省があったそうです。

翌年は規模を小さくし、奥八女芸農学校を企画しました。地元の方から海外まで様々な地域の方が参加し、講師のアーティストと共同で農作業をしたりアート活動をしたりする半農半アートの活動を行いました。アート活動といっても地元の食材を使った創作料理を作ったり、大地の声を聴くといってみんなで地面に転がったり、みんなで焚き火を囲んだり、そして最後にこの地域でアートについて考える意味について話し合うといったことをされたそうです。

この活動は翌年以降も続けられ、だんだん地域の方にも浸透していき、そういった中で生まれたのが「八女茶山おどり」です。

アーティストの武田力さんが参加者と地元の老人ホームで長年八女に暮らしている方から話を伺ったりしながら、それぞれが農作業中に印象に残った動作などを元に民謡「八女茶山唄」に振り付けをして完成しました。プロジェクト自体は期間が終わり終了しましたが、地域の担い手の人々が継続して取り組みを行っているそうです。

そもそもアートとは一体・・・?
今回の報告書の中にも「アート」という言葉が何回も出てきましたが、アートって何なんでしょうか。

アーティストが作った作品?それとも芸術全体のこと?

今回の八女茶山おどりについて言えば、それ自体は単なる農作業の動作の集合ですが、一つ一つの動作をこだわりを持って再現したり、当時の人の想いを表現したりすることでアートに昇華されています。長津先生いわく、これってアートなのか?という議論を含めてアートの存在意義があるとのことです。深い・・・。多分皆さんの中にそれぞれのアート像があるのではないでしょうか。

農×アートの魅力
長津先生が取り組んできた中でアートマネジメントは、アートを農村に「持ち込む」のではなく、農村と共にアートを共創することが大事であり、そして地元の人々を刺激して自発的、循環的にアートを想像していくような媒体としてアートが重要ではないかと考えているそうです。
参加者の方からはこのような取り組みは、新しい形のまちおこしや、地域振興のようなものにつながっていくのではないかとの意見もありました。

最後に、八女で行ってきたような取り組みを今後別の場所でも起こしていくにはどのような事が必要になるかとの質問があり、長津先生からは「地域の人とその外の人、それぞれの背景などを含めてお互いの意思を理解し、翻訳してつなぐような人材がいるかどうか」という回答がありました。サイエンスコミュニケーションもですが、伝える側、受け取る側を仲介する人の重要性というものは分野が変わっても同じなんだなということをしみじみと感じました。

今回の話題は「アートってこういうことじゃないのか」、「アートと〇〇を組み合わせてみると面白そう」など思っている方も多いのではないでしょうか。そんな皆様に関連イベントをご案内いたします。
半農半アートについてもっと話を聞いてみたいという方や、逆に農村から見たらアートはどう見えるのか気になるという方!
実際に今回登場したプロジェクトに参加した地元の方やアーティストも講演されますので、是非ご参加いただければと思います。

日  時2023年1月9日(月・祝)14:00~17:00(会場13:30)
場  所伊都キャンパス ゲストハウス 多目的ホール / オンライン(Zoom)
定  員30名(伊都キャンパス)
申  込https://forms.gle/BJ56ghfSx5XgkSGT9
※申込締切2023年1月5日(木)
プログラム『里山保全と農ある暮らし』
  朝廣 和夫(芸術工学研究院准教授)

『芸術活動と農ある暮らし』
  長津 結一郎(芸術工学研究院准教授)

実践報告『八女市黒木町笠原での「奥八女芸農プロジェクト」』
 武田 力(演出家・民俗芸能アーカイバー)
 小森 耕太(認定NPO法人 山村塾 理事長)

『農村の価値を可視化する』
 野村 久子(農学研究院附属国際農業教育・研究推進センター 准教授)

『国際的な教育プログラムの場としての農村』
 廣政 恭明(農学研究院附属国際農業教育・研究推進センター 准教授)
 房 賢貞(農学研究院附属国際農業教育・研究推進センター 助教)

ディスカッション/今後の連携に向けて
 全体進行: 森 千鶴子(芸術工学研究院学術研究員)
ホームページhttps://www.didi.design.kyushu-u.ac.jp/20230109nouarukurashi/
お問合せ九州大学大学院芸術工学研究院附属社会包摂デザイン・イニシアティブ 半農半アートフォーラム担当
MAIL: sal-cul★design.kyushu-u.ac.jp(★を@に変えて送信ください。)

参考リンク
◎九州大学芸術工学研究院附属 ソーシャルアートラボ
 http://www.sal.design.kyushu-u.ac.jp/
◎NPO法人 山村塾
 https://sansonjuku.com/
◎九州大学 社会包摂デザイン・イニシアティブ
 https://www.didi.design.kyushu-u.ac.jp/

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