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第85回「環境の謎に迫る!~持続不可能な地球~」開催レポート

5月13日に開催された第85回サイエンスカフェ@ふくおかの開催報告です。

第85回サイエンスカフェ@ふくおかのテーマは

環境の謎に迫る~持続不可能な地球~

昨今SDGsや持続可能性という言葉はよく耳にするようになりましたが、今回のテーマはこれと相反するもの。このタイトルの真意とは何なのか、お話いただいたのは理学研究院地球惑星科学部門山本順司先生です。

 山本先生は阪神淡路大震災をきっかけに地球に興味を持ち、この分野の研究へと進んだそうです。東日本大震災にショックを受け、専門家として何か発信するべきではないかと考え、いろいろな情報発信の方法を模索し、サイエンスカフェ活動にも積極的に取り組まれています。

山本先生(上段右)、吉岡先生(中段左)と参加者、スタッフの皆様

山本先生プロフィール

 琵琶湖産。広島、東京、フランス、別府、アメリカ、札幌、地球各地をさすらい、
昨年10月に14回目の引っ越しで札幌から糸島にやってきました。
 前職では社会と科学との間にある壁を取っ払おうと文学部の教員として博物館経営を考えていました。
 今は高温高圧実験による物質合成や地球深部由来物質の同位体分析を通して、地球を様々な時空間スケールで切り出す四次元地球プロジェクトを推進しています。
 別府八湯温泉道 第3125代温泉名人 (表泉家)。


環境とは一体何か。

 よく使う割に漠然としたイメージしか持っていないのではないでしょうか。辞書での定義を見てみると生物の周りにある社会や自然などの外的要素と書かれています。

 何となく分かるような、まだ漠然としているような・・・今回はそんな環境を時間・空間という視点で見ていきましょう。

地球の環境の時間スケール

 皆さんは凍結融解という現象をご存知でしょうか。

 この現象は岩石や土壌が凍ったり溶けたりを繰り返す現象で、北海道など寒い地方ではコンクリートに染み込んだ水が凍結と融解を繰り返してボロボロになったりと結構な社会問題になっているそうです。

  ただ長い目で見るとこの現象によって高い山、岩が砕かれ、平野ができるということであり、私たちに非常に恩恵をもたらしています。

 同様に大規模な地すべりは短期的に見ると災害ですが、非常に長いスケールで見ると広大な平地ができるということであり、そうやって出来た平地の上に繁栄している都市は世界中の各地に存在します。

 また近年カーボンニュートラルの観点で使用が避けられている化石燃料も元は数千万年前の樹木であり、その頃に吸収されたCO2を排出しているため、数千万年の範囲で見るとニュートラルになっています。

 ここで大切なのは現象をどの程度の期間で捉えるかということ、またその結果が人だけでなく他の生物などにもたらす影響を考えることも重要になります。

地球の環境の空間スケール

ここでクイズです。
今回のサイエンスカフェのチラシを飾った写真ですが、一体これは何でしょうか?

見た目はきれいですが、実はこの正体は二酸化炭素だそうです。
私たちの足元、地球のマントルにはこのような形で二酸化炭素が大量に存在します。

またまたクイズです。
1回の火山の噴火によるCO2の排出はどのくらいあると思いますか?

 答えは1億トン

 かなりすごい量と思いきや、日本の年間排出量の約10分の1、世界の年間排出量だと約350分の1程度と意外と多くありません。
 一方恐竜が絶滅した頃のCO2排出量は1兆トン(単位揃えると10000億トン)と言われており、さきほどの世界の年間排出量で計算すると約30年分もの量があります。

なぜそれ程多いCO2排出があるのか?

 これはインド、デカントラップの火山の噴火が原因と考えられています。(恐竜絶滅の原因には諸説ありますが、巨大隕石の落下の他、この噴火も一因ではないかとの説もあるそうです)

 ここで先程の噴火の排出量と違うじゃないかと思う人もいると思いますが、これにはクイズの1問目で話したマントル内の二酸化炭素の話が絡んできます。
 マントルにある二酸化炭素を含む岩がマグマで溶けて噴火の際に地表に放出されます。実はマントル内には地表と比べとんでもない量の炭素があり、マントルの深くからの噴火の場合、CO2排出量が多くなるそうです。

 最後に今回の副題である持続不可能な地球の意味するところを聞いてみると、

 「地球は絶えず変化しており、それを一定の状態に保つ(持続させる)ということは人には出来ません。ただし人が引き起こした結果に対する責任や対応は必要だと思います。」

 とお答えいただきました。

 今回のサイエンスカフェでは環境について、いつもと違った時間、空間の視点で見ていきました。ある現象について時間の捉え方により評価が正反対となったり、広い空間で見ると私たちの見ているものが氷山の一角であったりと、私たちが当然と思っている環境への価値観に対して非常に示唆に富む内容でした。

6~7月にかけて九州大学創立111周年記念Vision Expoの一環として「みせる」九大の総合知プロジェクトと題して、サイエンスカフェを開催します。詳細については九州大学特設サイトを御覧ください。

九州大学 創立111周年記念 特設サイト

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