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第93回「昆虫のはねの謎に迫る!~3億年前から使われている折りたたみ~」開催レポート

 2023年5月26日(金)に第93回目となるサイエンスカフェ@ふくおかをBIZCOLIさんの素敵な空間をお借りして開催しました。
 約3年ぶりの対面での開催でしたが、多くの方にご参加いただきました!

 今回は、九州大学大学院 芸術工学研究院の斉藤 一哉(さいとう かずや)先生を講師としてお招きし、
「昆虫のはねの謎に迫る!~3億年前から使われている折りたたみ~」と題したテーマでお話しいただきました!

◆プロフィール
 2007年 京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了、2009年 東京工業大学大学院理工学研究科機械物理工学専攻博士後期課程を修了し、東京大学生産技術研究所機械・生体系部門、東京大学大学院情報理工学系研究科を経て、2019年に九州大学大学院芸術工学研究院へ。
 折紙の数理や生物模倣に基づく先進構造材料の開発に取り組む。昆虫は好きだが根っからの昆虫少年だったわけではない。

 斉藤先生はとても熱心な先生で、講演日の午前中は学部3年生の授業で自然界が作りあげたハンミョウのはねのデザインを観察するため、
 研究室の学生を連れて、東平尾公園までハンミョウを捕獲しに行かれていたそうです!笑 
(ちなみに学生は捕獲できなかったそうですが、斉藤先生は3匹も捕まえたそうです。もはやプロですね・・・!)

司会の伊藤浩史先生(左端)と、講師の斉藤一哉先生(中央右)、社会連携推進室Q-STRINGグループ長の吉岡瑞樹先生(右端)

【第一部】

  第一部では、ハサミムシやハネカクシなど、様々な虫の写真とともに斎藤先生の研究をご紹介いただきました。
 折紙の数理や生物模倣に基づく先進構造材料の開発に取り組んでおられる斉藤先生。研究を進めていくにつれ、
 自然の折りたたみってどうなっているのか?という点に興味が出てきた結果、昆虫の翅の研究を行うようになったそうです。

 大型化している宇宙構造(ソーラーセイル、アンテナ)において非常に重要な技術である「折りたたみ」について、昆虫の翅から
 ヒントを見出すとは…。

● 翅の折りたたみって何がすごい?

  私たちが普段使っている折り畳み傘も一瞬で開けるものもありますが、強風時に使用すると簡単に壊れてしまうこともありますよね。
 このように、折りたたみやすさと強度は基本的に相反するものですが、昆虫の翅は進化の過程で、それら二つを両立させることを成功させています。

● 生体模倣とは?

  0から積み上げることなく、生き物が進化の過程で得た答えをもとに技術を生み出していく、トップダウン式の技術革新のことを指します。
 例えば、マジックテープ(オナモミの実、通称ひっつきむし)や濡れない傘(ハスの葉)、ヤモリテープ(ヤモリの手)など、
 どれも私たちの生活にすでになじみ深いものたちですが、これらが世の中に存在するのは生き物たちのおかげだったんですね!

● ハネカクシの翅の折りたたみ

  ハネカクシという昆虫をご存知ですか?蟻のようなシルエットで、よく見ると背中に鞘翅と呼ばれる翅があります。
 鞘翅は基本、外に露出しており、胴体全体を覆うようなものですが、ハネカクシは体の柔軟性を向上させて外敵の危険にさらされにくい、
 より安全な狭い場所で生活するため、鞘翅を短くして折りたたむことができるように進化していました。また、その翅の折りたたみは
 左右非対称であり、昆虫の中でも非常に稀であると言います。

【ここでハネカクシの翅の折りたたみクイズが!】

  ハネカクシが翅を折りたたむ様子を真上からハイスピードカメラで撮影した動画を2つ見比べて、そのちがいを見つけるクイズを行いました。
  参加者の皆さんもスクリーンにくぎ付け…!正解者にはハサミムシの翅からつくった特製扇子(ペーパークラフト)がプレゼントされました。 

皆さん動画にくぎ付けです。
耳打ちで回答する参加者の方
見事正解し、特製扇子をゲットされていました!

  実は、ハネカクシは左側・右側のどちらからでも翅を折ることができるんです。1つの開いた形に1つの折りたたみの形があるのが普通ですが、
 ハネカクシは2つの折りたたみ式を有しており、それぞれの翅が二通りの折りたたみ方に対応しているため、左右の折りたたみパターンを入れ替えて
 折ることができるそうです。こんな複雑な機能を持っているのに、フレームはとてもシンプルなつくりをしているそうです。奥が深い・・・。

● どうして右と左で翅を折り分ける必要があるの?

  翅の折り目に偏りが出てしまったら、飛行する際にバランスが悪くなってしまうから?など、仮説を立てながらいくつか観察を続けてみたものの、
 バランスが良く左右から翅を折りたたむハネカクシもいれば、どちらか一方から折りがちなハネカクシもいたそうで、その真相は謎に包まれています。

● ハサミムシは折りたたみの天才!

  昆虫の翅の折りたたみといえど、その種類は様々。その中でも、ハサミムシは折りたたみの効率が一番良く、15分の1~17分の1くらいにまで
 翅を折りたたむことができ、昆虫の中でも翅を小さくたたむのが上手いのだそう。

  その翅が開く瞬間をおさめるべく、2014年頃からハサミムシを追いかけてきた斉藤先生。徹夜をしてまで撮影・観察し、ありとあらゆる手を
 使ってみたにもかかわらず、ハサミムシはなかなか飛んでくれず…泣
  斉藤先生が試行錯誤するなか、2018年にTokyo Bug Boysの平田文彦氏が、ハサミムシが翅を広げる姿を撮影することに成功。
 その動画を見た斉藤先生にも衝撃が走ったそうです。小さな体から大きくてとてもきれいな翅が広がる様子に、会場でも感嘆の声が上がっていました。

 【動画】http://tokyobugboys.com/2018/07/20/earwig-wings/ 
 (Tokyo Bug Boysのホームぺージ上で公開されています)
 
  その後、斉藤先生が芸工の学生と協力して作った、世界で唯一のハサミムシのきぐるみを参加者の方に背負ってもらい、翅の構造を
 より詳しくお話しいただきました。

オリジナルの着ぐるみを用いて翅のつくりを説明
つぶらな瞳がなんとも愛くるしいですね♪

● 翅の折りたたみの歴史

  斉藤先生は、オックスフォード大学自然史博物館の研究者たちとともに、このハサミムシの翅の複雑な折りたたみパターンが極めてシンプルで
 幾何学的なルールで作図できることを明らかにしました。やり方がわかっていれば、定規とコンパスだけでも作図できてしまうのだとか。
  また、ハサミムシの近縁種の翅が残った化石を調査すると、今回明らかになった幾何学原理による折りたたみが、約2.8億年前から使われている
 非常に優れた方法であり、折り紙の幾何学によって昆虫の翅の進化を説明できることを示しているそうです。

  非常に長い年月の中で進化してきた昆虫の翅の折りたたみ。まだまだ解明されていないことも多いそうですが、私たち人間が技術的に抱えている
 問題は、昆虫たちはすでに何らかの形で解決してしまっているのではないか?と斉藤先生は語りました。
 
  まずは、生きている昆虫を観察することが非常に重要で、小さな体や気付かない身近なところに、とても大きな発見が隠されているかもしれません。
 「LEAP BEFORE YOU LOOK!(見る前に飛べ!)」の言葉と、先生が初めて見た時に笑い転げたというキジラミの衝撃的なジャンプシーンと共に、
 第一部が終幕しました。

【研究成果】昆虫界で最もコンパクト:ハサミムシの扇子の展開図設計法が明らかに(九州大学HP)

https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/469/

【第二部】

  第二部の座談会では、より近い距離で、コミュニケーションを楽しみました。第一部でプレゼントされた扇子を実際に折ってみたり、
 質問が活発に飛び交ったりと、大変盛り上がりました。

座談会の様子
ハサミムシ扇子の折り方のコツを説明
閉会後、斉藤先生と社会連携推進室の教員で記念撮影!(左から、房賢貞先生、伊藤浩史先生、斉藤一哉先生、吉岡瑞樹先生)

  斉藤先生の研究室HPでは、先生が取り組んでおられる研究のより詳しい情報が掲載されています。
  さらに、数多くの昆虫たちの写真を掲載しているインスタグラムもありますので、是非チェックしてみてください!

  ◆ホームページ  https://ksaito-tech.wixsite.com/ksaito
  ◆Instagram  https://www.instagram.com/origami.biomimetics/

 

  また、九州大学 公式YouTube上では、ハサミムシの翅の型紙や展開図
 の作り方の動画も公開されていますので、是非ご覧ください!

  さらに、2023年8月5日(土)には九州大学大橋キャンパスで施設公開
 が開催されます!お子様から大人まで、「芸術工学」の魅力を楽しみな
 がら学べる企画が沢山!また、紙製のハサミムシ扇子も配布されるそう
 です!皆様のお越しを心よりお待ちしております!

  ◆詳細は以下のHPをご確認ください。
   https://www.design.kyushu-u.ac.jp/open-campus/

  

次回の「サイエンスカフェ@ふくおか」のお知らせ

  次回は、6月22日(木)19時よりBIZCOLIさんの交流ラウンジにて対面で開催されます!
  「ナノ医薬とは何か!~工学部で医薬品開発~」と題し、東京大学大学院工学系研究科の宮田完二郎先生にご講演いただきます。
  詳細は以下のURLをご確認ください。皆様のご参加をお待ちしております!
  https://syarenkei.kyushu-u.ac.jp/2023/05/22/0622sciencecafe-info/

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