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第94回「ナノ医薬とは何か!~工学部で医薬品開発~」開催レポート

2023年6月22日(木)に第94回目となるサイエンスカフェ@ふくおかはBIZCOLIさんの素敵な空間をお借りして開催しました。
週の真ん中での開催でしたが、多くの方にご参加いただきました!

講師紹介

今回の講師は、東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/バイオエンジニアリング専攻の宮田完二郎教授です。
先生は、大学4年生の頃からひたすらナノ医薬の研究を20年以上続けています。
その間、先生はずっと工学部にいたわけではなく、途中で医学部の方で教員をしていた経験もあるとのこと。
「工学部の技術を医学あるいは医療に応用する!」という研究を続けており、夢は「自分たちの技術で今まで治らなかった難病の治療を実現する!」を
目標にナノ医薬の日本のトップランナーとして走り続けています。

講師の宮田完二郎先生(右)

【第一部】

第一部では、開始一番に先生から「ナノ医薬知ってる人!手を挙げて~」から始まりました。
会場の挙手率は3分の1強。先生は挙手率の多さに喜び!
ちょっと前までは、ナノ医薬?それこそなんなんだ!という反応だったそう・・・・
一躍、世の中に浸透してきたのは、新型コロナウィルスがきっかけとのこと。

・まず、はじめにナノ医療とは?

ナノ医薬とは、薬とナノバイオ材料を組み合わせて作る新しい薬です。原子・分子レベルでの制御に基づくナノテクノロジー技術です。
また、ナノとはサイズ・長さのスケールのことです。
1ナノメートルは10億分の1ということで、肉眼では見えない非常に小さいサイズだということがわかります。
例えるならウィルスと同じぐらいのサイズとのこと。(なかなかイメージしにくいですが・・・・)

・なぜ、工学部でナノ医療?

医薬品開発というと思い浮かぶのは薬学部ですが、なぜ工学部で医薬品?
その謎に先生が答えてくれました。

薬学部は、元々ある伝統的な技術や化合物の開発などをそのまま発展させて医薬品開発を行います。
それに対し、工学部は、抗体などの新しい化合物や材料、技術、今まで医薬品として使われていなかったようなものも、
どんどん薬にしていこう!というような研究で医薬品開発を行います。
工学部というところは、新しい価値、あるいは材料、技術などを作り出すということです。
これまで薬に使われなかったような物質も薬にできるかも?あるいは既存の薬を、同じものであっても根本的に違う方向に転換できないか?
というような発想で研究を取り組み、その中でナノ医薬ができたと。おっしゃっていました。

・新型コロナウィルスワクチンとナノ医療

講演のはじめにもありましたが、私たちの生活に身近に感じるナノ医薬としては、新型コロナウイルスワクチンが挙げられます。
なぜ、新型コロナウィルスワクチンにナノ医療が使われるのか?先生が説明してくれました。

新型コロナウィルスワクチンは、ナノカプセルの中にメッセンジャーRNAなどの医薬成分や表面を安定化させる分子や材料が封入されています。
直接、メッセンジャーRNAを体内に接種しても、体内のディフェンスシステムで攻撃を受け、胃の細胞の中にある酵素から分解、代謝されてしまうので、ナノ医療の機能を使い、ナノカプセルに封入して、薬を守り、かつ細胞の中に効率よく運んで、スパイクタンパク質を作らせることによって、新型コロナウィルスの免疫を獲得することができます。
メッセンジャーRNAは当初、壊れやすい分子であるということで、とても薬にできるはずがないというのが、30年前の常識でしたが、ナノ医療技術を使うことによって、使えないと思って諦めていたものが、使えるようになるということで一部の人に興味がとどまっていたものが、新しい科学技術が進んでいき、組み合わせることによって非常に役に立つものにかわる!一度使えないと思ったものが、日の目を見るように大きく変わる可能性があるという良い例だと先生はおっしゃっていました。

・がん治療に希望の光!ナノ医薬の今後について

一般的ながんの三大療法は、外科手術、放射線療法、抗がん剤治療です。
これに対して最近登場したのが、第4の治療法、がん免疫療法と呼ばれているものです。
免疫療法とは、ナノ医療をつかい、ガン細胞へいく薬の量を増やして、
その他正常な組織に行く薬の量はとにかく減らし、身体の副作用を減らす療法です。
先生いわく、まだまだ改良の余地はありますが、ナノ医薬の大きなミッションとおっしゃっていました。

・ゲノム編集とナノ医薬について

ゲノム編集とは遺伝子改変のことです。ゲノム編集には編集したい遺伝子を認識するガイドRNA、それからはさみの役割をするキャスナインという二つが必要です。
現在、アルツハイマー病などの治療に使えないかということでマウスを使って、脳内にゲノム編集のためのナノ医薬を投与し、実際にゲノム編集が誘導できているかという実験を行っています。結果、ナノ医薬がゲノム編集を誘導することができているということがわかりました。しかし、先生いわく、まだまだ課題が多く、脳の海馬などに、ゲノム編集を誘導できるようなナノ医薬を改良・開発しなければ治療に使用できないというところで現在も研究を続けているとのことです。

・今後の展望

最後に先生より今後の展望について語っていただきました。
SFの映画などであるような、勝手に病気を見つけて、我々の知らない間に勝手に治してくれる夢のようなナノマシン技術の実現に近づけるよう研究を進めているとのこと。
あと、アンチエイジングが注目されているので、今後ゲノム編集などで老化遺伝子をコントロールすることを可能にし、病気にならずに健康体で長生きできる将来を作れるよう日夜、研究に励んでいくとのことです。先生の今後の研究に期待したいものです!

その後、質疑応答を受け、第一部が終了しました。

今回の司会の岸村顕広先生(左)と講師の宮田完二郎先生(右)
お二人は以前同じ研究室でともに研究をおこなっていました。

【第二部】

第二部の座談会では、より近い距離で、コミュニケーションを楽しみました。
第一部で伺った内容での疑問点や今後の展望についてなどの質問が活発に飛び交い、大変盛り上がりました。

座談会の様子

閉会後、宮田先生と社会連携推進室の教員で記念撮影(左から、吉岡瑞樹先生、岸村顕広先生、宮田完二郎、伊藤浩史先生)

次回の「サイエンスカフェ@ふくおか」のお知らせ

次回は、8月4日(金)19時よりBIZCOLIさんの交流ラウンジにて対面で開催されます!
「肺の謎に迫る!~シミュレーションから形作りを解き明かす~」と題し、
九州大学大学院医学研究院 系統解剖学分野の今村寿子先生にご講演いただきます。

詳細はこちらをご確認ください。皆様のご参加をお待ちしております。

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