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第96回「砂漠の謎に迫る!~乾燥地の自然と人~」開催レポート

 2023年9月8日(金)に第96回目となるサイエンスカフェ@ふくおかをBIZCOLIさんの素敵な空間をお借りして開催しました。 
平日の夜開催でしたが、OPACKのご協力もあり、たくさんの方々にご参加いただきました! 

ファシリテーターの笠原 玉青先生

◆講師紹介

 今回の講師は、九州大学学術研究都市推進機構(OPACK)研究主幹の大槻恭一九州大学名誉教授です。 OPACKでは、産学連携の推進、地域の暮らしや実証研究のプロモーションをおこなっておられます。
 回の冒頭では先生の生い立ちをユーモアあふれるエピソードで語っていただきました!
 先生は、宮崎大学農学部、京都大学大学院農学研究科で農業工学を学んだ後、香川大学(農学部)、鳥取大学(乾燥地研究センター)、九州大学(農学研究院、農学部附属演習林)に勤務し、国内外の水田や畑地、砂漠や森林における水の循環や利用に関する教育研究をおこなってこられました。
 また、大学入学と同時に大学を休学し、ロータリークラブ交換留学生としてオーストラリアの高校に留学。憧れのハイスクールライフとはかけはなれた生活でしたが、そこで砂漠地帯にある人口約200人の田舎町で過ごしたのを皮切りに、世界各地の乾燥地を巡って研究を楽しんできたと語っておられました。

人生と世相のグラフなどで大槻先生のユーモアにあふれた自己紹介でした

【第一部】

3つの国の紹介とその国にまつわるクイズについて

 第一部では、大槻先生が巡ってこられた国々の中から、3つの国の砂漠とそこに住む人々の生活等が紹介されました。その国々を紹介する前に先生からクイズが出題され、参加者は5人1組のグループとなり、クイズの解答に取り組みました。

 参加者の皆さんには世界の年降水量の分布図が配布され、そのうえで各グループにクイズ用の3つの世界分布図が配布されました。
 第1問目のクイズは、世界の森林分布図で、全グループ正解でした。

意見に耳を傾け、グループで1つの答えを導き出しておりました。
濃い緑の部分が森林の分布をあらわしています。 

 第1問目のクイズの解答の後、世界の植生分布と降水量の関わりが解説されました。
 大まかな目安として、年降水量500ミリ以上の雨が降れば森林となり、250~500ミリの地域は草原となり、250ミリ以下の地域は砂漠となります。しかし、寒いところのシベリアやカナダは降水量が少ないですが、寒くて蒸発散量が少なく、水に余剰があるため森林になります。すなわち、水に余剰があるところに森林があり、森林があるところは水に余剰があるということが分かります。

 第1問目のクイズの解説後は、1つ目の国メキシコの紹介でした。
 メキシコには3つの砂漠があります。今回は南バハ・カリフォルニア州にあるビスカイーノ砂漠のゲレロネグロの砂漠を紹介いただきました。
 ゲレロネグロ(黒い戦士)という町には世界最大の塩田があります。ゲレロネグロの年間降水量は80ミリ程度と極めて少ないですが、湿度が高い(平均湿度60%)ユニークな冷涼海岸砂漠です。大槻先生はJICAのメキシコ沙漠地域農業開発計画の専門家として1年間強この土地で仕事をしたとのことでした。 

 その当時、メキシコでは農地所有制度の改革や北米自由貿易協定(NAFTA)によって、エヒードという昔ながらの共有制村落による伝統的農業が衰退し、アメリカ等から大資本が参入し、近代的大規模農業に変わりつつある頃で、野菜・果物等の商品作物の栽培が増加しつつあったとのことでした。 
 大槻先生曰く、JICAプロジェクトを通じて実感したことは、ボトムアップ型の日本人社会とトップダウン型のメキシコ社会の価値観の違いでした。不平不満があっても陽気で明るいメキシコの国民性は、大統領が変わると末端まで体制が変化するという極めて強力なトップダウン制のため、「議論しても仕方ない」という諦めが生み出したものかなと感じたとのことでした。 したがって、国際協力においては、日本の価値観をそのまま持ち込むのではなく、相手国の文化を十分に理解したうえですり合わせていく必要があるとのことでした。

 第2問目のクイズは、難易度の高い問題で、参加者は頭を悩ませていました。
 第2問目のクイズの答えは、土壌pHの世界分布図でした。大半の解答は、間接的には正しいものの、直接的な正解はありませんでした。

 第2問目のクイズの解答の後、土壌pHと降水量の関わりが解説されました。降水量の少ない砂漠地域の土壌はアルカリ性、降水量の多い森林地域の土壌は酸性になる傾向があります。砂漠では蒸発散量が降水量を上回るため、土壌中の水は上昇傾向、森林では降水量が蒸発散量を上回るため、土壌中の水は下降傾向にあります。土壌水には栄養塩が含まれており、砂漠では土壌水が栄養塩を地表面に運ぶため土壌はアルカリ性になりやすく、極端な場合には塩類集積が生じること、森林では土壌水が栄養塩を地下に降下させるため、森林土壌は貧栄養で酸性になりやすいことが説明されました。

 第2問目のクイズの解説後は、2つ目の国、塩類集積が深刻なパキスタンの紹介でした。
 パキスタンは、インダス川流域(インダス川とその4つの支流)を骨格とする四大文明発祥の地です。19世紀末~20世紀初頭のイギリス統治時代に、大規模ダム、大規模頭首工、河川連絡水路、灌漑水路網が建設されました。その後も灌漑施設の整備が進み、パキスタンは、灌漑面積が広大で灌漑率が極めて高い世界有数の灌漑国となっています。 しかし、排水施設の整備が不十分で水路からの漏水や盗水等が絶えず、その結果、湛水害・塩害が深刻な問題になっています。ここでは、パキスタンの灌漑・排水網、深刻な湛水害・塩害が生じている地区の状況、合理的な水管理を行っている大規模企業農場ではこのような問題が生じていないことが紹介されました。そのうえで、工学的には解決可能な方法があり、解決の筋道が見えていたとしても、集落間の対立や、政治・経済上の問題等によって、環境問題の解決策は容易に受け入れられないことを痛感されたそうです。さらに、湛水害・塩害が深刻な灌漑水路末端の村落を訪ねた時、さぞや困窮しているかと想像していたところ、中近東に出稼ぎに行っている働き手からの送金によって、周辺よりむしろ豊かな生活を送っている村落があったそうです。したがって、大槻先生曰く、環境問題への対処においては、自然科学だけでなく、社会科学も交え、九州大学が標榜している「総合知」での取り組みが必須であるとのことでした。

 第3問目のクイズも難易度の高い問題でしたが、ほとんどのグループの解答は正解でした。
 第3問目のクイズの答えは、宗教の世界分布図でした。
 世界の人口の56.7%は、同じ神を信仰する一神教徒(キリスト教徒:32.9%、イスラム教徒:23.6%、ユダヤ教徒:0.2%)で、各宗教の教義は大きく異なりますが、ルーツはすべて砂漠の国イスラエルの地にあります。同じ神を信じながら、なぜこんなにも教義が異なるのかを各宗教の預言者に基づいて解説されました。

3番目の最後のクイズは、超難関で答えを出し合う時間が長かったように感じました。
正解は宗教の世界分布図でした。

 第3問目のクイズの解答の後、3つ目の国、一神教ルーツの国イスラエルの紹介でした。
 イスラエルを縦断する形で、宗教との関わりを紹介しつつ、砂漠の自然や景観が紹介されました。また、極端に水資源が乏しいイスラエルがドリップ灌漑という灌漑法を開発し、世界のスマート農業をリードしていること、生活面では節水を強要せず、海水淡水化と廃水の再利用を高度に進化させ、世界の水技術・水産業をリードしていることが紹介されました。
 大槻先生曰く、この国で体感したことは、文化の大切さとのことです。国際化を目指すには、その土地土地の文化や風習を理解しておくこと、できれば世界の半数以上が信仰している一神教の世界を理解しておくことが望ましいとのことでした。

 後に、大槻先生は、現在、Society5と呼ばれる予想もできない新たな社会へと進みつつあると述べ、文明(役にたつ価値)はどんどん進歩することが予測されるけれど、文化(意義のある価値)を大切にする必要があるとおっしゃっていました。
 また、「グローバル」と「ローカル」を足した造語「グローカル」、すなわち、地域性を考慮しながら地球規模の視点で考えて行動すること、地球社会や地球環境を考慮しながら地域の視点で考えて行動することすることが大切であること、問題が生じた場合、すぐに対策に走るのではなく、まず「思いやり」と「共感」をかけていくことが重要であり、その態度は身近な人に対しても国家間でも一緒であると述べられました。
 大槻先生の経験を通じて、大切なことを学んだ第一部でした。

【第二部】 

 第二部の座談会では、第一部で伺った内容での疑問点や質問「砂漠の定義」や「砂漠化と温暖化の関係性について」「砂漠の砂の質について」「防風林について」など話題が飛び交い、終了時間ギリギリまで大変盛り上がりました。 

座談会の様子  より近い距離で、コミュニケーションを楽しみました。
様々な質問が飛び交いました。
(左)ファシリテーターの笠原 玉青先生 (右)今回講師の大槻 恭一先生

次回の「サイエンスカフェ@ふくおか」のお知らせ 

次回は、10月20日(金)19時よりBIZCOLIさんの交流ラウンジにて対面で開催されます!「超元気な分子の謎に迫る!~光エネルギーを手にした分子~」と題し、九州大学理学部の宮田先生にご講演いただきます。 

詳細はこちらをご確認ください。皆様のご参加をお待ちしております。 

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